That's Japanシリーズ
概要
ワークショップ手法など、演劇界で起こしているさまざまな改革は、日本社会にも有効!
大げさな台詞も、スポットを浴びる役者のエクスタシーもない。劇団「青年団」の舞台は日常の言葉が静かに交錯し物語が進行する。いま、このスタイルが新劇や小劇場のイメージを変え、若手劇団に影響をあたえている。演劇はテーマではなく、作家・演出家の世界観で勝負する。演劇に自覚的であればあるほど、過剰な台詞や感情移入はいらない。平田オリザが求めるものは徹底した演劇の『リアル』だ。
表現の形こそ違え、『リアル』こそが国や世代や言葉をやすやすと超えていく。
「私とあなたとはこんなに違うけど、一つの共同体がつくれますか」。演劇をつくることは、自己と他者を峻別するこの問いから始まると著者はいう。日本のこれからの社会は、壊れかけたシステムを価値観のバラバラな人間たちでつくり直さなければ滅びてしまう、そこで有効なのも『リアル』なのだ。
平田オリザ(劇作家・演出家)
1962年東京都生まれ。劇作家、演出家。桜美林大学助教授。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」を結成。九五年、「東京ノート」で第三九回岸田國士戯曲賞受賞。新しい演出様式による「現代口語演劇理論」を確立し、こまばアゴラ劇場を拠点に劇場システムの変革にも取り組む。公演やワークショップの場を海外にも広げる演劇界屈指の理論派。著書に『現代口語演劇のために』 『都市に祝祭はいらない』(ともに晩聲社)、『芸術立国論』(集英社)など。
目次
西洋と近代からの解放
あり余る時間の中で、自分の想念をまとめたいと思った
『巨人の星』の星飛雄馬のように物書きの訓練を受けた
物質的な苦労なしに育った最初の世代
常識にとらわれないから無謀なことができる
野田秀樹の演劇に強い感銘をうけた
「近代」「西洋」の呪縛から自由になる
日本の演劇は「ねじれ」を自覚しないまま来た
観客が半減して、かえって劇団が活性化した
オリジナリティがなければ職業として続かない
俳優の技術以前に台本に問題があった
近代劇をつくる。そして、そこから出発する
リアリズムのタガがはずれ、ヒューマニズムが暴走した
海外では日本の「弱者」は通用しない
言葉を「開いていく」ことで共有の幅が広がる
「世界や人間をどう見ているか」を眺めてもらいたい
本来、劇は「一幕物・音響なし・照明変わらず」だった
理想は、一五○人ぐらいを対象にした劇
外側の世界から自己の検証をする
新人の登場は一○年周期
自分のスタイルで「三連勝」しないと生き残れない
劇団の「組織問題」と芸術は別もの
ワークショップは、観客を育てることでもある
ワークショップに新しい演劇の「鉱脈」を見つけた
「できる」「できない」がはっきりわかるプログラム
ワークショップは演劇を「リアル」にする
演劇で「世界観」を観てもらう
五〇年かけて日本を変える
演劇は、消費に耐えられる「革命」を起こすしかない
革命戦略としてのアートマネージメント
演劇の「公共性」を訴える
転機は借金と支配人を引き受けたこと
成功例をプレゼンテーションする
芸術と市民社会をアートマネジメントで結ぶ
日本にはアートプロデューサーがいない
日本社会全体に流動性がない
五○年かけて日本社会を変える
徹底的に「どん底」を見てから始める
「バラバラな私たち」がうまくやっていく社会
異なる価値観がコミュニティを活性化させる
芸術の役割は「人生のシミュレーション」だ
「緩やかなネットワーク社会」が地域づくりの鍵になる
いまの子どもには「通じない」という体験が欠落している
「教えることが何もない」授業で学ぶ
「しゃべらない」のも人間の言葉である
演劇をきっかけに、外部と、他者と出会う
基礎学力に「科目」という枠組みはいらない
アジアと日本との差異を知る
日本人の計画性、集団性が世界では特殊だ
「安住しないこと」が持続的な成長をもたらす
自らを閉ざす日本人
日本はそれほど危機的な状況ではない
『ロミオとジュリエット』は成立しない
「シェイクスピア劇」の普遍性には理由がある
日本の地殻変動はもう始まっている
「内なるクレオール」に気付くことが変化につながる
書評・感想
「リアルだけが生き延びる」(平田オリザ著)を読んで
「一つのことから、大変多くのことが見えてくる。逆に大変多くのことを考えないと一つのことも満足に為し得ない」というようなことを感じました。改めて。 (東京都 60歳男性)
演劇とかことばについて語った本ではなく、街の活性化や今をどうとらえ何をしたらよいかを考えさせてくれる本でした。聞きとり、対談形式なので、いきおいがあって読み易く、750円というのもうれしい。「今の子どもには通じないという体験が欠落している」にぐさっときた。(千葉県 男性)
面白かった。現代と著者の考えがはっきりと表されており、考えながら読み進めていました。現実に対して、客観性と希望が必要であり、演技の方法はそれを人間が手に入れるのに必要な技術だと思いました。こんな本が作れる編集者は最近いなかったなと思いました。(東京都 男性)
「もう風も吹かない」を観た後で読んだので、おっしゃっていることがクリアに伝わりました。公務員がプロデューサーであることの限界などはまさにその通りと手をたたきたくなりました!(埼玉県 35歳女性)
まだ平田さんの作品をみたことがないのですが、他の作者の「評判の作品」の騒がしさには大きな違和感をもっていました。この本で平田さんの目指しているもの、方法を詳しく知ることができて非常に有益でした。こりずに劇場に足を運んでいろいろ鑑賞してみることにします。自分でも演劇の方法を何か使ってみることを目指して。(匿名希望)
とても読みやすく、かつ廉価で時代にあったコンセプトだと思います。歴史的な流れ、伝統を押さえた上で、21世紀の新しい方向を説く、著者本人の魅力もさることながら、インタビュアーのセンスがいいですね。ひさびさの快感でした。(東京都)