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That's Japanシリーズ

アジアの孤児でいいのか

アジアの孤児でいいのか

姜尚中 著

価格 750円(本体価格)+税 
ISBN 978-4901391-39-9
発売日 2003/09
ページ数 128ページ
版型 A5変形判 ソフトカバー
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概要

テレビでお馴染みの理論派が、わかりやすく語る日本とアジア

日朝国交正常化への希望は、拉致問題に端を発したメディアの過熱キャンペーンと北朝鮮の「核カード」で吹き飛ばされた。イラク戦争で、日本は「大義」と引き換えに有事法制、イラク支援法をあっさりと手に入れた。不況下にはこの種のナショナリズムが顔をのぞかせる。しかし……嫌な感じだ。
なぜ、いま日朝交渉が必要なのだろうか? 朝鮮戦争休戦から五〇年、冷戦崩壊がようやく北東アジアに及ぼうというときに、いつまでもアメリカの「言いなり」でいいのか? ここで国を想う進路や国益を見誤ると日本は永遠にアジアでの居場所をなくしてしまうだろう。いまこそ戦後日本の究極のテーマ「アメリカと北東アジア」を冷静に分析する必要がある。「北東アジアに生きる」ロードマップを提示する著者の声に、じっくりと耳を傾けよう。

目次

アメリカの単独行動と日本の選択

一九七九年を境に「戦後」が変わった
アメリカン・デモクラシーの逆ドミノ
日本における一九七九年の意味
グローバリズムが国家の役割を変える
強国のセキュリティが世界を覆う
選別と選択による「妄想の戦争」
「大義」は、どうにでも言い訳ができる
アメリカという「妖怪」が動き出した
アメリカが同盟関係を仕切る
日朝関係はなぜしぼんでいったか
北東アジアの冷戦が終わろうとしている
日本の外交チャネルがやっと動いた
ナショナリズムが日朝平壌宣言を飲みこんだ
「すぐそこにある危機」をどう回避するのか

「アジア地域主義」が北東アジアを救う

日米合作の有事法案
「憲法」という使い勝手のいいツール
グレーゾーンを残す意図が見える
アジアの中で日本が孤立している
日本がアメリカの橋頭堡として残る
国家にとって教育基本法は欠かせない
都市の不満が極右勢力を生む
現状維持の「ねじれ」も保守を後押しする
日本の孤立も保守化を呼ぶ
都市の不満がポピュリズムを生む
ナショナリズムとは何か
人の記憶や忘却がナショナリズムを醸成する
「親米」は「愛国」たりえない
アジアの準覇権国、日本
アジア地域主義と「北東アジア共同の家」構想
アジア地域主義はナショナリズムを克服する
「北東アジア共同の家」構想のロードマップ
歴史の「内戦状態」が現れた
なぜ北朝鮮との国交回復が必要なのか
朝鮮半島が北東アジアの中心になる
北東アジアというフレームで経済を見る
北東アジアのセーフティネット
「国益」とは、「愛国」とは
新しい社会システムが問われている
在日という立場で貢献できること
「北東アジアに生きる」使命

書評・感想

対米関係の再考を提言「アジアの孤児でいいのか」

(東洋経済日報読書欄 2003年10月10日)
 在日韓国人2世の姜尚中・東京大学社会情報研究所教授の著書。
 姜教授はまず、最近のイラク戦争や北朝鮮、イランに対する米国の圧力を考えるとき、1979年が分岐点と説明する。
 この年、西でイラン革命が起き、東の韓国では朴正煕大統領の暗殺事件。つまり東西でニューディール型の近代化社会、2番目、3番目の日本をつくろうとする米国の企てが失敗している。
 さらに旧ソ連のアフガン侵攻、中国のベトナム侵攻と社会主義的市場経済導入もこの時代にあり、これは旧ソ連邦の崩壊、アジアの中の社会主義神話の崩壊、つまり現存社会主義が終わりに向かった年と語る。
 そして80年代になって米国のレーガン政権、英国のサッチャー政権は、戦後のニューディール型の福祉国家体制を終焉させ、新自由主義戦略、新しい国際秩序をつくる戦略に向かったこと、それが現在の湾岸諸国に親米政権を広げる戦略として表出しているとする。
 一方、日本は79年の大平政権下、高度成長が限界に達するなかで、上からの改革を模索、それが小渕政権のときに復活し、いまの小泉政権につながっている。この新自由主義的な国家政策の背景には階級間格差があり、その中で一つの国民としてまとめていくために、新保守主義的な考えが導入されていることに警告を発する。日本は米国の「ジュニアパートナー」となることで国際的地位 を保とうとしているが、その状態ではアジア諸国との新しい関係を築くのは無理と断言する。
 いま大切なことは、米朝不可侵条約に向け、日本が韓国とともに役割を果 たすこと、朝日交渉を進めて国交正常化を実現すること、韓・朝・日が中心となり北東アジアを非核地帯とする、そして将来的に「北東アジア平和の家」を作り出すことと主張。歴史問題、拉致問題、戦後補償などは、それらの共同作業を行う中で解決の道を探ろうと力説する。
 21世紀の北東アジアの平和を考えるうえで、示唆に富む一冊である。

「アジアの孤児でいいのか」(姜尚中著)を読んで

ナショナリズムではなく、地域主義が日本を救う
 この10年ほどの日本には、世界史年表に記載されるような大事件こそなかったが、わが国が着実に変わりつつあることは確かである。例えば、軍事の面 で戦後長らくタブー視されてきた自衛隊の国連平和維持活動への参加がある。冷戦の崩壊による国際社会の変化ばかりでなく、日本人の意識構造も変わってきたのである。問題はその変化のありようである。
 日本はどこへ行くのか、日本の進むべき未来とはいかなる未来かを希求した『ザッツジャパン』は2002年9月に創刊されたが、そのシリーズの11冊目として登場したのが本書である。インタビュアーに答える形で「著者」が論旨を展開している。既刊本の「著者」には鳥越俊太郎、矢吹晋、宮崎学、立松和平、宮台真司ら錚々たる論客が名を連ねている。
 さて、本書の著者は姜尚中(カン サンジュン)。1950年熊本市生まれで東京大学社会情報研究所教授が現職である。  『アジアの孤児でいいのか』と書名にある。「……でいいのか」ということは「日本はアジアの孤児である」ことが確かであることを前提として論が展開されいるわけである。
 まず、インタビュアー氏(インタビュアーの姓名が伏せられているのは読者にとって不親切である。公表すべきであろう)は姜に問う。  「侵略と戦争責任、冷戦とその崩壊、半世紀以上も正面きって解決されなかった日本とアジアの問題は、歴史に向き合うという大きなテーマである。アジア、とりわけ北東アジアで日本はどういう選択をするべきなのか」と。
 姜の応答は明快である。まず、「日本は日米安保に依存することによって大国的なポジションを保持できたが、歴史問題も含めて、アジアとの敵対関係を清算できなかった」「日本は基本的には覇権国家との結びつきが強かった。戦前で言うと日英同盟、戦後では日米安保である。近代日本の危うい国家的な方向の過ちは、一番近い国とのパートナーシップがなかったこと」と過去を振り返り、要するに、「日本の場合、アジアにおける地域的な結びつきが非常に希薄で、日米という二国間関係に非常に縛られていて、潜在的には近隣アジア諸国とかなり分裂と対立を含んでいる。」「アメリカの一極支配下にある日本のとっている選択は、アメリカとの一体化を通 じて北東アジアの政治的な変化に対応していこうという、その一言に尽き、日本の独自性はない」という。この明解すぎるほどの断定こそは著者の日本外交に対する怜悧な評価であろうが、次のような文脈はいかがなものか。
「今の日米関係の中でナショナリズム、つまり国家の自主性や自立性などはありえない。それは『従属的ナショナリズム』というべきものである。………凡そ国家の独立とか、自主性とか、自己完結性がなくなっているがゆえに、国益という一つの幻想が作られる。もし本当に国益や自主性を考えるならば日米関係を廃棄せざるをえない」
 立て板に水のような脈絡には論理の飛躍があり、凡百の「対米追従」のレッテル貼りと大過ない、的を外した批判であるといわざるをえない。
 日本とアジアを考えるに重要なファクターである朝鮮半島の将来的な構図について語る際の姜には、生気溌剌たるものが感じられる。姜は、「朝鮮半島が統一されて少しずつ日本離れが進み、朝鮮半島とユーラシア大陸との結びつきがより強まっていけば、北東アジアの中で日本が孤立していく」といい、ここではじめて「孤児」ならぬ 「孤立」が語られているが、それはともかく、そうした日本にとって好ましからざる方向性を打破するためには、「国家を超えたゆるやかな一つのネットワーク」を形成することが必要で、「ナショナリズムに代わりうるのは地域主義しかありえない。そうすれば複合化して生活圏が広がり、例えば福岡の人が玄海灘を越えて朝鮮半島で仕事をして、夜になれば帰ってくるということもできる」と生活に密着した具体例を語っていて説得力がある。
 姜の言わんとするところの地域主義とは近隣諸国との地域的な結びつき・きずなを大切にするという意味であろうか。その方策として、「二重国籍制度」を提唱しているところは共感できる。(東京都 男性)
1979年を挟んでの歴史の流れがよく理解できた。注釈も分かりやすい。アジア地域主義の重要性、その前提としての日朝国交回復早期実現の必要性に対する著者の熱意がひしひしと感じられ、説得力があった。北東アジアの一員としてメディアに踊らされることなく、冷静な視点に立ち、近隣の国々を理解することの大切さを痛感した。(熊本県 47歳女性)
「アジアの孤児でいいのか」とう想いを抱く日本人は多いのではないか——表面には現れていないが。庶民の中の無名の一人の私もそうである。それをずばり取り上げて表に出してくれた。姜尚中教授の該博な知識と頭脳の明晰さとに深い敬意を表し、その人柄に限りない親近感を受ける。こういう考えがどうか日本の主流となってくれるよう必死の想いで祈りたい。私は88才——韓国にも、北朝鮮にも親友を持つ——生きていてくれればよいが……。久し振りに出会った名著!我が意を得た——繰り返して読むべし!(大分県 男性)
今日的テーマを最高の著者にわかりやすくまとめてもらった一冊で、大いに啓発された。著者の本はつとめて読んできたけれど、これだけ砕けた調子でわかりやすくしかも適当な価格で出版してくれた貴社に対しても深い敬意を表します。本書が初めてですが、貴社のシリーズを今後精力的に読んでいこうと思います。(新潟県 73歳男性)