That's Japanシリーズ
概要
最前線のチャイナ・ウォッチャーが語る中国。日本はどうすべきか
いまの中国は40年前の高度経済成長期の日本に似ている。人々は、今日よりも豊かな明日を夢見て必死に働きつづけている。そのパワーは、いずれも中国の政治体制すら変えていくだろう。翻って日本はどうだろう。構造改革、不良債権処理を何度叫ぼうが、十数年が無為に過ぎ、経済は低迷し、国民は消沈している、それどころか、自らの無策を中国の経済発展のせいにするような論調も後をたたない。 「先進国」日本はどこへ行くのか? アジアのリーダーとしての使命はないのか? 改革開放をひた走る中国の現状を通 して、中国の進路と、日本の進むべき未来を透視してみよう。
目次
いまの中国経済はワイルドキャピタリズムである
社会主義市場経済という言葉にまどわされるな
共産党は、共産主義政策を何ひとつやっていない
政治のシステム自体はいぜん共産党独占
朱鎔基内閣は徹底的なテクノクラート内閣
2000年までに市場経済への移行は終わった
「負け組」の欲求不満はすさまじい
戦後日本のような価値観の転換が起きている
現在の中国は激しい競争社会である
公務員も実力主義・競争社会に転換
政治局でも若返りが進む
次のトップには胡錦濤がなる
胡錦濤内閣から政治システムも変わる
江沢民はリーダー失格
江沢民はもっと政治改革を進めるべきだった
弾圧で法輪功は強力な反体制組織になった
ミサイル攻撃は台湾人2200万人を敵にした
大陸は台湾や韓国と同じ道を歩んでいる
2008年までには人民元は自由化される
「貧しい中国」と「発展した中国」のふたつの顔がある
とう小平の改革開放は周辺国のまねにすぎない
所得の高い中産階級がどんどん増えている
中国は着実に大衆消費社会へと向かっている
「国防三線」建設は徹底的に無駄を追求した
格差の大きさが経済を活性化させる
中国は国内に植民地を持っている
とう小平の本質は発展主義である
共産党はいずれ名前を変えることになる
日本政治の無策が「中国脅威論」を生む
中国からの輸入問題は「日日摩擦」にすぎない
「中国脅威論」は事実に合わない
アジアでできるものはすべて輸入するべき
日本は高コスト体質を改めるべき
「中国脅威論」は日本をだめにする
中国からの輸入はGNPの1.5%にすぎない
香港、台湾を含めると日中貿易は赤字ではない
「中国からの輸入が雇用を奪う」という誤った議論
すでに経済的な「大東亜共栄圏」が実現している
日本の政治はドメスティックで末期症状
日本のマスコミは現実の中国経済を見ていない
人民元の切り上げはありえない
古い観念から抜け出せない日本
中国進出に失敗したものほど声が大きい
日本と米国では中国投資の利益率が違う
アメリカ人は状況に応じて具体策をたてる
日本企業は国内と同じことを中国でやろうとする
日本人の常識で勝手に判断してはいけない
中国のせいにすれば話が済んでしまう
長期独裁政権ゆえの腐敗は多い
市場経済になって許認可は減っていく
中国の構造汚職は根が深い
中国人民は相対的に豊かになっている
とう小平の改革開放に大きな構造転換があった
中国には三つの物価水準がある
均質な日本社会には中国のような希望がない
国交回復から年が経った
書評・感想
私の読書日記
(『週刊文春』私の読書日記 by 立花隆氏 2002年11月7日号)
ウェイツという小出版社から、「ザッツ・ジャパン」というシリーズ本が出ている。新書判より判型は大きいが、ページ数は半分以下。厚みを出すために、若干厚めの紙を使っているが、作りはチャチで、小冊子といってもいいくらいの本だが、矢吹晋『中国から日本が見える』(七五〇円+税)を読んでみたら、これがなかなかいける。
筆者は、政治経済の両面のからみの分析を得意とする現代中国論の代表的な論客の一人。「中国経済はワイルドキャピタリズム」「共産党は、共産主義政策を何ひとつやっていない」「大陸は台湾や韓国と同じ道を歩んでいる」「2008年までに人民元は自由化される」「日本政治の無策が生む『中国脅威論』」「中国からの輸入はGNPの1.5%にすぎない」「香港、台湾を含めると日中貿易は赤字ではない」「すでに経済的な『大東亜共栄圏』が実現している」「中国進出に失敗したものほど声が大きい」などなど、斬新な切り口から、日本のマスコミに多い俗論(脅威論、「近く破綻」論)が、次々にねじふせられてゆく。
半分が中国論で、半分が日本論。重厚長大の斜陽産業のリーダーが財界を指導するようでは日本に望みなし、小泉改革はまるでアジアを視野にいれていない、などの指摘はなるほどと思わせる。
これだけの小冊子によくもこれだけ情報を詰めこんだと思う。原稿の分量 からすると、新書の半分程度(長めの雑誌論文二本くらい)だが、インタビュー形式なので読みやすく、内容的にも充実している。こういう造本なら月刊誌ペースで制作できるだろう。うまくいけば、雑誌と新書の間をいく新しい活字メディアになるかも。もっとも書店の扱いが問題だが。
(『週刊チャイニーズドラゴン』2002年11月19日)
経済・政治・金融などを自在に行き来しながら、軽快に読み進められる筆致。筆者の提言も織り込まれており、メリハリがある構成になっている。
コンパクトながら、簡潔にして必要十分な情報を、的確に記した本書を一読することで目からウロコが落ちること請け合いだ。また、本文に登場する人物、事件、用語などは該当ページの欄外に解説がついているため、非常に読みやすい。
「今の中国は40年前の高度成長期の日本に似ている」。現代中国論、中国経済論専攻の現横浜市立大学教授の矢吹晋氏が広汎な知識を縦横に駆使して「中国の今」を紐解く。それを元に浮き彫りになる「日本の今」、そしてこれから。単純な中国脅威論や、単なる楽観論におちいらないためにも、必携必読の一冊だ。